2022年8月16日午前9時45分ごろ、広島市南区宇品東4丁目のマツダ宇品工場内の変電所において、点検業者の作業員が変圧器の保守点検中に感電し、死亡するという事故があった。
広島南署によると、被災者は同僚10人と作業しており、突然倒れたとのことである。

マツダ工場内で38歳作業員が感電死 広島 | 中国新聞デジタル
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/202963

広島県を管轄している中国四国産業保安監督部のホームページにおいて、令和4年度第2四半期の電気事故の概要が公表された。
2022年8月に発生した死亡事故は1件のみであるため、下記は本件の概要であると推測される。
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電気事故報告の概要(令和4年度第2四半期) 中国四国産業保安監督部
https://www.safety-chugoku.meti.go.jp/denki/jiko/jirei/jikojireiR4-2.pdf

受変電設備の点検を行うための停電切替操作(停電隔離操作)を行ったとあるので、部分停電での点検作業を行っていたことがわかる。
その上で、バックアップ電源系統※1 の停電操作を失念し、検電も行わなかったため、盤内のケーブルヘッド導体露出部に触れてしまい、感電したとの内容である。

直接原因として、事業者であるマツダ側がバックアップ用電源部分を通常停電しているものと思い込み、作業手順書に停電操作を記載しなかったということが挙げられている。
その間接原因としては、2022年3月に電源系統の変更工事が行われ、その結果として当該部分が充電状態となったが、その内容が電気主任技術者に正しく伝わっていなかったとのことであった。

ニュース記事によれば変圧器の保守点検との記載があるので、1台の特別高圧変圧器とその二次側の高圧配電盤の点検を行っていたのではないかと考えられる。
10人という人数で作業を行っていたことからも作業内容が多い場所であったものと思われる。
この仮定の元で、点検箇所をAバンクとすると、感電発生箇所には別のBバンクからの通電があったものと推測される。
一例としては、下記のような構成で、破線のAバンク内において母線連絡※2 箇所のみが充電状態となっていたという状況が考えられる。
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電気設備学会誌 2015年3月 事業継続に配慮した受変電設備と保守
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieiej/35/3/35_175/_pdf/-char/en

原因として、点検業者が感電発生箇所に検電および短絡接地器具※3 の取付を行わなかったとの記述がある。
作業者がもし自主的に検電や短絡接地器具の取り付けを行っていれば、それが最後の砦となり最悪の事態は防ぐことができたかもしれない。
しかし、マツダ側がそもそも充電状態であることを認識しておらず、不完全な状態で作業を引き渡したことに根本原因があったと考えられる。

例年同じ点検業者が作業を行っていたのであれば、毎年と同じ手順であり、そこは停電しているものという油断もあったのかもしれない。
また工事の内容や受変電設備の状態が部門間で正確に共有できていなかったと思われ、組織としての保安体制にも疑問を感じる。

発注者および点検業者・施工業者、双方が何重にも安全対策を行い、このような悲惨な事故が二度と起きないことを強く願う。


※1 バックアップ電源系統というのは事故概要に出てくる用語であるが、一般的には予備回線や発電設備、蓄電設備などのことを指す。
予備回線には外部(電力会社)からのものと内部からのものがあるが、今回は内部の別バンクからの電源であったと解釈するのが自然と判断した。

※2 母線連絡とは、別々の変圧器からなる複数バンクの二次側母線を接続すること。
通常は母線連絡用遮断器は切りで運用し、変圧器を停止させたいときや、事故による緊急時のバックアップとして入り操作を行う。変圧器の並列運転を行う場合も入りとする。

※3 短絡接地器具とは、停電作業時に誤操作や誘導による通電での感電事故を防ぐために電路に取り付ける安全用器具である。
労働安全衛生規則第339条により、高圧および特別高圧回路においては取り付けが義務付けられている。主回路の3相とアースを電気的に短絡させる構造となっている。アースフックとも呼ぶ。
今回は、上流側および別系統の複数箇所から電圧が印加される可能性があったので、少なくともそれぞれの箇所に短絡接地器具を取り付ける必要があったが、別系統の箇所においては取り付けが行われていなかった。
(仮に取り付けを行っていれば、事前の検電で充電状態が発覚するか、取り付けた際に地絡となり、当該回路が遮断されたものと思われる)